第10回 / 全20回 · CULTURE & BRAND · 1969.11.27

「余白のデザイン」──798の空間から学ぶパッケージデザイン論

余白とは「何も無い」のではなく、「見せたいものを選び抜いた」ことの、静かな証明だ。

4 min READ

798の展示空間で、最も贅沢に使われているもの。それは作品でも照明でもなく、「余白」だ。

天井までの高さ。作品と作品のあいだの距離。何も掛けられていない広い壁。情報のない空間が、たっぷりと確保されている。不動産の効率で考えれば、もったいない話だ。壁一面に作品を並べたほうが、一度に多く見せられる。しかし、優れたギャラリーほど、そうしない。

理由は明快で、余白があるからこそ、ひとつの作品に視線が集まり、記憶に残るからだ。人間の注意力には限りがある。すべてを見せようとすれば、すべてが流れていく。ひとつに絞れば、そのひとつが刺さる。余白とは「何も無い」のではなく、「見せたいものを選び抜いた」ことの、静かな証明なのだ。

翻って、商品パッケージの世界はどうだろう。伝えたいことが多いほど、文字や要素を詰め込みたくなる。成分の魅力、使い方、ブランドの想い。どれも大切な情報だ。しかし、すべてを語ったパッケージは、店頭では何も語っていないのと同じになる。売場は情報の洪水だ。その中で手に取られるのは、多くの場合、静かで、余白のあるデザインだ。

余白のあるデザインは、見る人に「選び抜いた自信」として伝わる。ごちゃごちゃと説明しないのは、説明しなくても伝わる本質があるからだ、と。逆に、隙間なく埋め尽くされたデザインは、どこか不安の表れとして伝わってしまう。

798のギャラリーが余白によって作品を生かすように、パッケージは余白によって中身を生かす。デザインの仕事は、足し算ではなく引き算。何を載せるかより、何を載せないかを決めることのほうが、はるかに難しく、はるかに重要だ。

この原則を、私たちは自社ブランドのデザインレビューの基準にしていきたい。会議で「この要素も足そう」という声が出たとき、誰かが「798の壁を思い出そう」と言える。そんなチームでありたいと思う。

INSTINCT RAS · MAGAZINE