第6回 / 全20回 · CULTURE & BRAND · 1969.11.13

なぜ化粧品ブランドがアートを見るのか──美意識とブランディングの関係

美意識は、才能ではなく筋肉だ。使えば育ち、使わなければ衰える。

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「化粧品会社が、なぜアート視察を?」と聞かれることがある。もっともな疑問だと思う。今回はこの問いに、正面から答えてみたい。

答えははっきりしている。私たちの仕事は、突き詰めれば「美しさとは何か」を問い続ける仕事だからだ。

化粧品づくりには、ふたつの領域がある。ひとつは科学の領域。処方の設計、成分の選定、安定性の検証、品質管理。ここは、データと再現性の世界だ。私たちはAIを活用した処方設計にも取り組んでおり、この領域のテクノロジーは日々進化している。

しかし、もうひとつの領域がある。その商品を「誰に、どんな気持ちで使ってほしいか」を決める領域だ。ボトルの曲線、色、質感、名前、言葉、香り。手に取った瞬間の印象。使い終わったあとの余韻。ここには正解のデータがない。決めるのは、作り手の美意識だ。

そして美意識には、厄介な性質がある。放っておくと、痩せていくのだ。同じ業界の情報だけを見て、競合の売れ筋を追いかけていると、判断の「ものさし」がどんどん似通っていく。気がつけば、市場にあるものと同じようなものしか発想できなくなる。これは個人の才能の問題ではなく、インプットの構造の問題だ。

アートを見るとは、他人の美意識に真剣に向き合うことだ。理解できる作品からは、自分の「好き」の輪郭を教えられる。理解できない作品からは、自分のものさしの外側にある世界の存在を教えられる。どちらも、美意識の栄養になる。

798で世界中の表現に触れた数時間は、どんな市場調査データよりも、私たちのものさしを鍛えてくれた。市場調査は「いま何が売れているか」を教えてくれるが、「次に何を美しいと感じるか」は教えてくれない。後者を感じ取る力は、本物に触れた量でしか育たない。

美意識は、才能ではなく筋肉だ。使えば育ち、使わなければ衰える。だから経営者も、デザイナーも、開発者も、定期的に自分の業界の外にある「本物」の前に立つべきだと思う。私たちにとって798は、その最高のトレーニングジムだった。

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