第2回 / 全20回 · CULTURE & BRAND · 1969.10.30

会長が歩いた798──現地視察 フォトレポート

第一印象は「音」だった。予定を詰め込まず、迷う時間を残す。良い街も、良いブランドも、余白がある。

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現地写真:視察スナップ3〜5点

798の第一印象は、意外に思われるかもしれないが、「音」だった。

世界的な観光地なのに、騒がしくない。レンガ造りの建物のあいだを歩く人々の足音、カフェから漏れる控えめな音楽、どこかのスタジオから聞こえる作業の気配。大声も、呼び込みも、スピーカーの割れた音もない。街全体が、ひとつの静かな集中力に包まれている。この「音の設計」だけでも、来た甲斐があったと思った。

歩いてすぐに驚かされるのは、スケール感だ。工場だった建物はどれも天井が高く、窓が大きい。人間の生活のためではなく、機械と生産のために設計された空間は、人間の尺度を超えた「余白」を持っている。その余白の中で、アートが呼吸している。天井の低いビルの一室では、決してこうはならない。

私たちの視察には、あえてひとつのルールを設けた。予定を詰め込まないこと。ギャラリーをいくつか巡り、路地を歩き、カフェで休み、また歩く。地図を閉じて、「迷う時間」を意図的に残した。

これは遊びではない。良い街は、迷うことが楽しいようにできている。曲がった先に何があるかわからない期待感が、歩く速度を緩め、視線を上げさせる。効率だけを求めるなら最短ルートを歩けばいいが、それでは街の体温はわからない。そして、良いブランドもまた同じだ。すべてを説明し尽くさない余白があるから、受け手の想像力が動き出す。

歩きながら、同行したメンバーと交わした会話も印象に残っている。「この壁の質感、うちのパッケージに使えないか」「この看板の文字の大きさ、絶妙だな」。アートを観に来たはずが、話題は自然と自分たちのものづくりに戻っていく。良いインプットとは、そういうものだと思う。

化粧品の会社が、なぜアートの街を歩くのか。答えはシンプルで、私たちが美を扱う仕事だからだ。美意識は、机の上では育たない。データからも育たない。本物の空間に身を置き、歩き、迷い、驚くことでしか、鍛えられない筋肉がある。

この日の数時間は、どんな研修よりも濃い時間だった。

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