第18回 / 全20回 · CULTURE & BRAND · 1969.12.25

感性を鍛える経営──なぜ経営者はアートを見るべきか

経営の本当に重要な判断は、数字になる「前」の段階で決まっている。

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経営の意思決定は、最後は数字で語られる。売上、利益、投資回収、株価。上場企業の経営者として、数字への責任から逃げるつもりはまったくない。数字は、経営の共通言語だ。

しかし、正直に言えば、経営の本当に重要な判断は、数字になる「前」の段階で決まっている。何を作るか。誰と組むか。どの市場に、どんな順番で向かうか。そして、そもそもどんな会社でありたいか。これらを決める時点では、頼れる数字はまだ存在しない。存在しない未来について判断するとき、最後に働いているのは、経営者の感性だ。数字は、感性が下した判断を、あとから検証してくれるにすぎない。

そして感性には、恐ろしい性質がある。放っておくと、固まるのだ。同じ業界の情報、同じ顔ぶれの会議、同じ種類の成功体験。その中に長くいると、判断の「ものさし」が更新されなくなる。過去に効いた打ち手を繰り返し、変化の兆しを「例外」として処理するようになる。衰えは、本人には自覚できない。これが、経験豊富な経営者ほど陥りやすい罠だと思う。

だから、意識的に、自分の外側にあるものに触れる必要がある。アートは、そのための最も効率的な装置だ。理由は単純で、アートには「理解できないもの」が含まれているからだ。わかる作品は、自分のものさしを確認させてくれる。わからない作品は、自分のものさしの限界を突きつけてくる。このふたつを往復することが、感性の可動域を広げる。ビジネス書を100冊読んでも得られない種類の運動だ。

798で過ごした時間は、視察であると同時に、経営者としての筋トレだった。すぐに売上になる知識は、ひとつもない。しかし、5年後のどこかの会議室で下す判断の質を変える何かは、確かに持ち帰ったと感じている。

数字を読む力と、数字になる前のものを感じる力。経営には、両方が要る。前者は学べるが、後者は歩いて触れて驚くことでしか育たない。だから私は、これからも現場と本物の前に立ち続けたい。

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